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「───君は今、悲しい?」
話を止めた私にイサが聞く。何でそんなこと聞くのだろう、と不思議に思つつも、そうだね、と答える。
「・・・・・大事な友達を怪我させちゃったからね、いい気はしないな」
「・・・・・、そっか。ごめんね、無理に聞いちゃって」
無理に聞いたという自覚はあったのか。だったら聞くな・・・・・と言いたい所だが、私は口を結び首を横に振った。
とりあえずこの青年を帰そう。
向こう側でファーファラが待つ扉へと向かっているのを見て、服の裾を小さく引く。振り返ったイサに、後ろの窓を指さした。
幸いなことにここは一階、外に出ることは容易い。───あの膜のような結界さえなければ。
「・・・・・おにーさんの出口はあっちね。そっちは危ないから」
「え、ああ。・・・・・うん、ありがとう」
若干戸惑ったものの、素直に頷いて窓に向かうイサ。思いの外あっさりと従った事に少し驚いた。
───こんな子供の言うことを聞くんだ。・・・・・なんて言うか、珍しいな。
大抵の人なら、はいはいと流しておしまいである。だから、何の力もない子供に発言力はない。・・・・・故に、私は力を見せてきたのだけれど。
最初から気にはなっていた。
この青年は何故か、私に対して馴れ馴れしすぎるのだ。まるで知人のように接してくる。
確かに、フレンドリーな性格だと言えばそこまでなのだが・・・・・どうにも引っかかった。そして、その引っかかりは消えずに残る。
───彼からは何か近いものを感じるな・・・・・髪色と瞳の色が同じせいなのかも。
特に黒髪はこの世界では珍しい種類に入る。その上での一致だ。偶然にしては出来すぎている気もする。
───ギィィ
不意に、私の思考を止めさせるように金属が擦れる音が鳴った。見れば、イサは既に窓の向こう側にいる。
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