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日はいつの間にか落ちていた。紅い月の日が近づいている証拠に薄い紅色をした三日月が2つ、藍色の空に浮かんでいる。
無事窓からの脱出を果たしたイサは、芝生の柔らかさを楽しみながら歩いていた。冷たい夜風が頬を撫でる。
「───やっぱり、カミュに聞いたのは良かったな」
思い出したのは、金色の毛先を遊ばせている友人の一人。
女遊びを好む彼に、女性へのプレゼントを相談したのはやはり正解だった。
───あげた時の表情といったら・・・・・ほんと、良かったな。
珍しくイサの頬が緩む。
この表情を他の仲間が見たら、良く似ている別人だと断言するだろう。・・・・・一瞬だとしても、楽しそうに笑うことすら珍しいのだから。
つい先程の出来事の余韻に浸る。彼の心の中は満足感で溢れていた。それを充分に堪能すると、イサはくるりと向きを変える。
街へと向うと思いきや、その足は別の方向へ。中庭を抜け、兵舎の更に奥───そこには見上げる程に立派な建物があった。
ひしひしと感じる威圧感、細かな彫刻が神秘的な雰囲気を醸し出す。
ここかな、とイサは目の前で立ち止まった。常人では恐怖すら覚えるであろう重圧も、彼は涼しい顔で受け流している。
そこは、所謂〝聖殿〟と呼ばれている建物。───不意にその影から声がした。
その方向をイサは横目で見る。
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