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「───妾は帰る。・・・・・そうじゃな、お主の入れ込むものを少し見たくなっ・・・・・」
「ん?」
「・・・・・、冗談じゃ」
言った瞬間どす黒くなったイサのオーラに慌てて踵を返すと、ヴィヴィはパチンと指を鳴らす。ああそうじゃ、と軽く後ろを振り返った。
「・・・・・お主も早く帰るんじゃぞ。今日はカミュが料理当番じゃからな」
「はいはい、それは楽しみだね」
「お主はいっつも帰ってこんからのぅ・・・・・」
不満げにそう言った───刹那、ヴィヴィの姿は消え、風だけが残される。彼女の気配が無くなったことを確認し、イサは紅い目を細めた。
「帰った、かな。・・・・・ヴィヴィがこんな所まで来るとなんて、そんなに変だったかな」
ぶつぶつとそう呟きながら、聖殿の扉に手をかける。ふと、引こうとした彼の手が止まった。
───濃い白色が聖殿全体を覆っている。
膜のようなその状態は、イサにとって見慣れたもの。多少荒業となるが、それらを無視することも可能だ。・・・・・しかし、無理に通るのは少し面倒である。
「・・・・・んー、いっそのこと消しちゃおうか」
考えた末に出た結論は、己の魔素性質を利用するというもの。おもむろに手をかざすと、そこに黒々とした魔素を集めた。
そして、言う。
《喰え》、と。
ボソリと呟いたその言葉。それに反応するように、手に集められた黒い魔素が膨張する。
やがて、扉以上に膨れ上がったソレは大きく広がり───。
───聖殿全体を、闇が覆った。
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