29.聖殿

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蘇る幼い記憶。生きる価値などない、と両親に罵倒され続けた日々が思い出された。 それは、自分とは違い優秀な妹からも。 ふと足が止まる。俯きながら、誰に言うでもなく呟いた。 「・・・・・そうですよね、私なんか生きる価値ありませんよね」 それはミレイヤの本音。基礎である第1級魔法ですら上手く扱えない彼女に、自信など残っているわけがない。 このまま野垂れ死のうか、と再び歩みを始めた時、落とした視線の先に誰かのつま先が見える。 ───ピカピカに磨かれた革靴。 ミレイヤが顔を上げると、銀の目を細めた少年と目が合った。純白に黒が混じった髪が、夜風に合わせて舞う。 シルクハットに礼装と、汚いこの場に似つかわしくない綺麗な服装だ。貴族の子供かもしれないとミレイヤは思った。 その少年は、品定めするように頭からつま先まで眺め、そしてニヤリと一言。 「───〝力〟が欲しいんですかァ?」 「・・・・・なっ!?」 初対面だというのに心を見透かされたような気がして、ミレイヤは思わず距離をとる。飄々とした少年を睨みつけ、警戒心を顕にした。
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