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◇◇◇
「───どうぞ、こちらへ」
平坦なファーファラの声と共に、視界を覆っていた布が外される。その瞬間飛び込んできた光に目を細めた。
ようやく目が慣れると目の前に聳え立っていた存在が顕になる。
どん、と威圧感を放つソレを前に、見上げた私の足が止まった。
「ここは・・・・・」
「〝聖殿〟でございます」
確かに、と一目見て納得する。出入口は当然の如く複数の結界に包まれ、入る事すら困難に思える。その結界も先程のような省エネ結界ではなく、ちゃんとしたもの───とにかく魔素が濃いのだ。
それだけで中にいる人物の実力が伺える。
ここへ案内された理由、それはファーファラの一言にあった。
『───巫女姫様でさえも治療不可能、との事です』
珍しく表情を崩した彼女が放った事実に、私の顔は一瞬にして青ざめた。
治癒魔法に長けているであろう巫女姫ですら治せない───その事はクライシュの死をも意味する。そうなれば契約主であるウェルバートも、ただでは済まないだろう。
何かと代償か、それとも死か・・・・・。
危険人物であるはずの私を聖殿に招いたのも、恐らくは巫女姫様とやらに会わせる為。もしかしたら、そこで裁かれるのかもしれない。
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