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「・・・・・殺さないの?」
敬語すら忘れ、素の口調でウェルバートを見上げる。だが、ウェルバートはその問いには答えず、代わりに別の質問を投げかけてきた。
「まず始めに確認だが・・・・・コウ、お前は人外で間違いないな?」
「・・・・・、どうせそう思う根拠はあるのでしょう?」
「そうだな、読んでいた本にもそれらしき種族があった。『伝説上の希少種族』という本だが、聞いたことはないか?」
それは、いつぞやかウェルバートが私に問いかけてきた題名。───もちろん心当たりはある。
そういえば不気味な赤い模様を見て以来、あの本は開いていなかったか。
ないですね、と答えると、まあお前が知っていようがいまいがどうでもいいが、と返された。
なら、何故聞いたし。
ジト目で睨む私を置いて、ウェルバートは話を進める。
「その本に、空気中の魔素を操ることが出来る唯一の種族があった。それが希少魔族だ」
「・・・・・・、なるほど。もしそうだとしたら、どうなさるおつもりで?」
「もちろん、殺す───」
殺気を伴った言葉にビクリと身体が跳ねる。だが、ウェルバートはその鋭い眼光を消すと、フッと表情を緩めた。
「・・・・・・のは、惜しいからな。ここはお互いの利点を考えた取り引きをしよう」
「取り引き、ですか」
「お前の目的はこの国を滅ぼす事ではないのだろう?もしそうならば、とっくに滅ぼしているはずだ」
たしかに、と私は頷く。わざわざ城内に留まる必要はない。
私が口を噤んでいると、今度は巫女姫がその桜色の唇を開いた。
「───お前の目的は何だ?」
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