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少しの間を空けてから私は答える。もちろん、その答えは決まっていた。
「・・・・・・、三食付きの争い事のない平和的な生活ですよ」
嘘ではない。わざわざ命を捨てたくはないし、揉め事だって御免だ。
それでも巫女姫は疑うような目つきでこちらを見つめる。真剣な表情でウェルバートが一歩前に出た。
「───明日の紅い月の日は、お前を地下牢に幽閉する」
「・・・・・・」
私を含め、その言葉に誰も反論の意を唱えない。紅い月の日に力を得るのは魔族も同じ。危険視されるのは当然である。
ウェルバートは言葉を続ける。
「その日の夜に暴走等の問題が起こらなかった場合のみ、今日のことは不問としよう。───巫女姫もそれでいいな?」
その言葉に巫女姫も頷いた。
「・・・・・・何か起こってしまっては遅い。私と他の巫女数名が見張り役を務めよう」
「───それは助かる。コウ、お前に拒否権はないからな」
当然だ、とでも言う風に私は頷く。反論出来る立場ではないことぐらいは把握している。
お金の件はこの際どうでもいい。
紅い月の日。───その日さえ無事に過ごせれば。
◇◇
ウェルバートの目配せにより、自然とその場は解散となった。巫女姫と他の巫女たちは聖殿の奥へ、ウェルバートはフィウストとファーファラをお供に城へ。
ぽつんと残されたのは、監視役にと置かれたクライシュとその監視対象である私のみ。
「え、あっ・・・・・・えっと・・・・・・」
「・・・・・・」
何か言おうと取り繕うクライシュと、何も言えない私。
言わずもがな、今回の一件の被害者と加害者である。
───・・・・・・一言で言うと気まずい。超気まずい。
いやでも、ここは何とかしなければ・・・・・・。
「あの、その・・・・・・傷はもう大丈夫?」
「へっ? あ、ああ大丈夫っす大丈夫っす!! 親切な青年が助けてくれたんすよ!!」
「親切な青年?」
そう聞き返した途端、「やばっ」と慌てて両手で口を塞ぐクライシュ。目もどこか泳いでいる。
そう言えば、巫女姫も〝先程の男〟だとか漏らしていたような。それでウェルバートに、話しすぎだって止められていた・・・・・・。
・・・・・・ますます気になる。
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