29.聖殿

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少しの間を空けてから私は答える。もちろん、その答えは決まっていた。 「・・・・・・、三食付きの争い事のない平和的な生活ですよ」 嘘ではない。わざわざ命を捨てたくはないし、揉め事だって御免だ。 それでも巫女姫は疑うような目つきでこちらを見つめる。真剣な表情でウェルバートが一歩前に出た。 「───明日の紅い月の日は、お前を地下牢に幽閉する」 「・・・・・・」 私を含め、その言葉に誰も反論の意を唱えない。紅い月の日に力を得るのは魔族も同じ。危険視されるのは当然である。 ウェルバートは言葉を続ける。 「その日の夜に暴走等の問題が起こらなかった場合のみ、今日のことは不問としよう。───巫女姫もそれでいいな?」 その言葉に巫女姫も頷いた。 「・・・・・・何か起こってしまっては遅い。私と他の巫女数名が見張り役を務めよう」 「───それは助かる。コウ、お前に拒否権はないからな」 当然だ、とでも言う風に私は頷く。反論出来る立場ではないことぐらいは把握している。 お金の件はこの際どうでもいい。 紅い月の日。───その日さえ無事に過ごせれば。 ◇◇ ウェルバートの目配せにより、自然とその場は解散となった。巫女姫と他の巫女たちは聖殿の奥へ、ウェルバートはフィウストとファーファラをお供に城へ。 ぽつんと残されたのは、監視役にと置かれたクライシュとその監視対象である私のみ。 「え、あっ・・・・・・えっと・・・・・・」 「・・・・・・」 何か言おうと取り繕うクライシュと、何も言えない私。 言わずもがな、今回の一件の被害者(クライシュ)加害者(わたし)である。 ───・・・・・・一言で言うと気まずい。超気まずい。 いやでも、ここは何とかしなければ・・・・・・。 「あの、その・・・・・・傷はもう大丈夫?」 「へっ? あ、ああ大丈夫っす大丈夫っす!! 親切な青年が助けてくれたんすよ!!」 「親切な青年?」 そう聞き返した途端、「やばっ」と慌てて両手で口を塞ぐクライシュ。目もどこか泳いでいる。 そう言えば、巫女姫も〝先程の男〟だとか漏らしていたような。それでウェルバートに、話しすぎだって止められていた・・・・・・。 ・・・・・・ますます気になる。
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