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「ダメっす!! 話したら俺らが殺されるんすよ!!」
「はあ?」
───なんだそのドラマにありそうな脅し文句は。
クライシュから飛び出した言葉に、私は思わず大きな声を出してしまった。なんて物騒な言葉だろうか。
巫女姫でさえもお手上げだったクライシュの傷が治っている──それはつまり。
その男性が治療したのだ、クライシュを。そんな人が話を広めたくらいで再び死に戻すだろうか。
「殺すって・・・・・・その男性はクライシュのことを助けてくれたんでしょ?」
「そうなんすよ・・・・・・って何でそれを!?」
「・・・・・・あのねぇ、そんなの普通に分かることだよ。ところで、その人の容姿とかは・・・・・・」
ちらとクライシュを見ると、ブンブンと勢いよく首を振る。やっぱり厳しいか。
怪しい男性と聞いて私が思い出したのは、いつぞやかの侵入者くん。だが、彼の魔素の色は白・・・・・・だったはず。
しかし、イサと名乗った青年に感じた違和感。探ろうとしたが、それ以上は本能が拒否していた。
(まさか・・・・・・ねぇ)
黙り込んでしまった私だったが、突然手を引かれ、はっと弾かれるようにして顔を上げる。
クライシュが浮かべていたのはいつもの笑顔。
「早く部屋に戻るっすよ!! 流石にこれ以上は怒られるっす」
確かにこれ以上は、ウェルバートやら何やらに怒られそうだ。苦笑して私は手を握り返す。
「あ、うん。・・・・・・そうだね、行こう」
手を引かれながら歩いていると、どこか心が軽くなったような気がする。少なくとも、クライシュが無事だったのは安心した。
──それに、何事もなかったかのように私と接してくれることにも、安堵している自分がいる。
良かった、と聞こえない声で言うと、私は聖殿を後にした。
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