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◇◇
薄い紺色に染まった空。少し肌寒いが、繋いだ手から温かさが伝わってくる。
それにしても、と私はクライシュと共に自室へ向かいながら、ぼんやりと思った。
───何故、その男性はクライシュが聖殿で治療中だということを知っていたのだろうか。
それと、彼の動機。初対面であろうクライシュを助ける目的は?
悶々と脳をフル稼働させて考えるが、当然答えは出てこない。本人に直接聞こうにも、彼を知らなければ意味が無い。
「コウ様、おかえりなさいませ」
「・・・・・・うん、ただいま」
───クライシュが治療中だと知っており、且つ、ウェルバート等とは初対面の人物・・・・・・。
いつものように部屋の前で待機しているファーファラに、気のない返事を返してドアを開ける。
バタン、と音を立ててドアが閉まった所で、私は前方に目を向けた。
薄暗かった部屋が自動的に明るくなる。魔道具の照明が部屋の中を照らす。───ソレを見た瞬間、思い出した。
「・・・・・・まさか」
見開かれた瞳に映ったのは、整えられた大きなベッド。そして、微かに残った甘い香り。
そうだ、私は侵入者にクライシュの事を・・・・・・。
ハッと口元に手を当てる。思い出した事実に、小刻みに肩が震えた。
「──そうだ、話したんだ」
〝友人が怪我をして治療中〟
名前こそ出さなかったが、そのようなことは話した気がする。思い出してみれば、あの男の魔素の色には白と断定できない違和感があった。
可能性は、高い。
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