6.大物

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「ありがとうございましたぁ!!」 広場の中心。一通りショーをし終えた私は、お金の入った氷の器を手にして、ニコニコと笑っていた。 人集りも、ショーが終わった今では大分掃けている。後は、数名の冒険者らしきパーティが去るのを待つだけだ。 先程からしつこいのだ、こいつらが。 「なっ?頼むよ、お嬢ちゃん。──5万G払うからさぁ、な?」 「私からもお願い!!それを売ってくれたら、お人形さん買ってあげるよ!」 幼女が成人済の男性と女性に懇願されるこの図。中々見られたものではない。 何故、このような状況になったのか──その原因を持つ私は、困ったようにため息を吐いた。 ───完全に裏目に出たな、こりゃあ・・・・・予想には入れていたが、予想以上にめんどくさい。 その二人の視線は、私の持つ〝タダの枝〟に集中している。 そう、ショーを行う前にそこら辺の木から折ったものだ。〝本来ならば〟何の価値もないこれを、こいつらは欲していた。 眉尻を下げ、黙って彼らを見ていると、後ろで立っていた残りの二人も参戦する。 魔法系職らしき女性と、筋肉隆々の剣士。 「わ、私も何か奢りますから!!お願いです、その枝を!!」 「俺からもお願いする。どうか、売ってはくれないだろうか?」 そう言って頭を下げる二人、いや合わせて四人か。 それを無視して、私は氷の器の中を見る。 金貨2枚、銀貨38枚、青銅貨47枚、銅貨62枚──計6万3320Gの収入。 路上のショーとしてはよく貰えた方であるが、この金額に関しては、正直どうでもいい。 これで、大物が釣れるかどうかだ。こんな小物に用はない。 ───タダの枝でも、見せ方によっては金になる。 ショーの中で、私は毎回枝を使い何かしらの動作を行っていた。振り上げたり、振ったり・・・・・全ての作業において、だ。 私の魔素変換スキルは魔法ではない。つまり、今の魔法詠唱では行えないもの。 故に、魔法でこれを再現しようとなると、新しい魔法を精製しなければならない。 それには数十年単位の莫大な修行期間が、必要になるだろう。 ───それを、幼稚園児くらいの少女が行っている。
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