第一章 帰り道
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その日は珍しく座れなかった地下鉄に乗って。 いつもなら座ってすぐ寝てしまうのだけれど、立ったまま眠るほど器用じゃない矢口賢一は、何となく窓の外を眺めていた。流れる暗闇に写る自分の日に焼けて、疲れた顔を見ながら、ああ、もうすぐ部活も引退だなあ、と、暗い目をする。馬鹿みたいにボールを追った二年間。決して野球部は楽じゃなかったけど、毎日地下鉄に通った通学路とも、あと一年でお別れだなあ、と少ししんみりしたりして。
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