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「いつもより女っぽいって思っただけやん。さぁ早よ飲み行こ、お前とドツキ漫才なんかしたないわ。それともあれかぁ、お前、俺とお手手とか、腕組みとかしたいんか? 俺は構わんよ、どうせ一晩中愚痴聞かされるんやから、それぐらいの御褒美はしてもらわんとな、胸が肘に当たるような。」
「変体オヤジ、もう一回殴られたいの!」
「いやもう結構です、お前のパンチ痛いから。さぁけど、ホンマ気ィ強いな。そんなしとったら、何時までたっても彼氏でけへんで。」
そう言った瞬間、彼女の強烈なパンチがまた右肩に当たる。この方が美子らしい。
先に歩き出した彼女に追い付き、十五分程人波に流れながら何時もね居酒屋に向かう。酒が入ると、美子は騒ぎ出すので、カクテルバーみたいな静かな所より、ざわついた居酒屋の方が気を使わなくてすむし、そんなお洒落な場所で会うような仲でもなかった。
学生バイトっぽい店員に小さな木製のテーブルに通されると、とりあえず私はビールを、彼女は酎ハイを注文し、ツマミを選択した。彼女は右手の小指で髪を耳にかけ、人差し指で細いふちの眼鏡を直しながらメニューを見て、
「ジャガバタと唐揚げと、あと何がいい?」と笑みを浮かべて聞く。
「豆腐の厚揚げ。あのなぁ、美子、シャツのボタン、一つ閉めてくれへんか、胸元が見えて落ち着かへんわ。」
「そんなに、気になる?」
「当たり前やろ、アホ。俺も男やで。目が胸元ばっかり追っかけるわ。それに、なんやねん、その笑顔、今日のお前、なんか変やで。」
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