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「あら、今晩は。ちょっと早くない?」
木村さんが食べるのを止め、こちらに来てくれたので遠慮がちに先程の件を話してみた。
「…………」
沈黙の後、まずはロッカーで着替えを指示され、言われるまま済ませ、検査室に向かう。
やはり「特に異常なし」としか出ず、でもイザリ屋でそう言われると少し安心だ。
怪我はほぼ『無かった事』に出来るし、死にかけていた瑠里だって、刻印が出すぎて大変だった母もお世話になっている。
技術に関してだけは厚い信頼を寄せていた。
「まだ時間あるし、トレーニングルームで身体でも動かして、シャワー浴びたらいいよ」
『何故トレーニングルーム?』と不思議に思ったが、部屋を開けるとリーダーと和音さんが自主練習をしていた。
「あ、お疲れ様です」
「おぅ、お前らもトレーニングか?でも仕事前って珍しいよな」
たまに鋭い事を言って来るのでドキリとする。
リーダーは見た目とは違い、仕事に対して『超真面目』なので暇があれば自主トレしている。
でも私達は休みの日は使っても、仕事前の空き時間はコーヒーでも飲んで寛ぎたいタイプだ。
「まさか、鷹のチカラが吸収されて試しておきたいとか……」
和音さんが追い打ちをかけてきたので、苦笑いして誤魔化した。
瑠里は会話に全く入らず、部屋の隅まで歩いて角から私達の方を見ている。
キセロも足元で座り、何となくこちらを馬鹿にしたような顔が苛立ちを誘ってきた。
私もイナリを連れて部屋の隅まで移動すると、瑠里を真似して立ってみた。
「お前ら……何やってんだ?睨めっこか」
このトレーニングルームは体育館程の広さなので、四隅に対角線に立つと、視力が良くてもはっきりと顔は見えない。
私は犬螺眼でカバーできるが、使わなかったら誰かが立っているとしか分からない程度だ。
「ワオンさーん、鷹の能力ってどんなの想像されます?」
瑠里が声を大きくして質問するので、顎に手を乗せて考えている。
「そうですね、まぁ一番は『眼』で、獲物を狩る力と飛力……等かなり手強い種類です」
「なるほど、今姉さんが不安そうな顔してるのが見えるから……」
眼のチカラは吸収してるという事だ。
犬螺眼を出さないよう意識して瑠里を見ているが、下のキセロが毛づくろいして、こちらをチラッと見ている事まで分かる。
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