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「用心棒って出番少ないし、臨時に小遣い貰えたりしたから、ヘコんでる百合ちゃんの気晴らしになるかなって」
「沈黙パーマにも聞いて、ホステス役は無理だけど、裏方で休憩時間多いなら悪くないし」
女性は人数が足りていて、用心棒は足りない上、滋さんは他の調査もしたいようだ。
紹介は『知り合い』からが原則らしく、滋さんは依頼主から推薦状を貰って入れたらしい。
「あっ!虎の世界で用心棒ってピッタリな人知ってますよ」
頭に浮かんだのは我らがリーダー朝霧悟だった。
強面だし『いかにも』なので数秒で馴染んでしまい、住んでると言われても不思議に思われない筈だ。
「うん悟には頼んでる、あとワオンにも」
という事は無色……いや、萌葱刺繍は啄以外全員に声を掛けているので、違和感と同時に嫌な予感がして質問をぶつけた。
「何人必要なんです?てかなんで、萌葱全員?」
「鋭い質問だね。客に何人か殺されちゃって……急遽人がいるっていうか、でもスキルテストはきちんとあるからね」
クスッと肩をすくめ日常会話のテンションで話す滋さんに、瑠里と私の声が部屋に響いた。
「絶対にお断りしますっ!」
力強く声を出しすぎゼェゼェと肩で息をすると、口を閉ざしていた社長と目が合い、ハッとしたように逸らされた。
「社長、聞いてましたよね?断って下さい」
ズイッと近づき説得しようとすると、妙にモジモジとして、いつものキツネらしさを感じず首を傾げる。
「いやその、なんていうか、瑠里さんがワシをそんな風にって思ったらドキドキして、心臓がキュッと締め付けられるようで。苦しくも嬉しいような」
ポッと顔を赤らめ両手で頬を覆うキツネに、腹の底から苛立ちが押し寄せ、胸倉を掴んだ上に首を絞めそうになっていた。
「十代の娘の戯言に本気で嬉しがってんじゃないよ、じじい!年寄りって言っても限度があるんだよ、絶対に許さないし……キツネを弟なんて呼ぶ気もないからな」
「ぐ……っ苦しい三途の川が見えそうじゃ」
瑠里と八雲さんに腕を掴まれ、私こそ夢で見た事をムキになって本気にしすぎだと、深呼吸して顔を背けた。
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