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「忍者時計の話はあとでいいからさ、引き受けるの?私だって心の準備がいるし、そろそろ帰ってドラム缶にこのエプロン見せてあげたいから」
「死神経由のバイトだから危険だろうけど、いずれ私達も通る道だし見ておくのはいいかもよ?」
腕組みしながらドヤ顔を決める瑠里に『本当に何歳なんだろう』と不思議に思いつつ、仕事の話は承諾して家に帰る事になった。
玄関の前ではタタタッとドタドタ…と足音が近づき、出迎えと同時に土産チェックはされるので袋を前に出してからドアを開けた。
「おかえりぃ……あ、食べ物はないんだ」
エプロンの包みだけサッと奪うと、お礼もなくリビングに向かう後ろ姿に苛立ちが込み上げてきた。
オヤツを食べていたのはパーティ開けしたスナック菓子で分かるが、今日は時代劇ではなく洋画が映ってるので瑠里が即座に口を開いた。
「これレッドリスト?」
「そう、今度シーズン4が始まるから一挙放送ってやつ」
時代劇と洋画のテレビシリーズは欠かさない母が、今ハマっているドラマの一つで、裏の世界で名をはせた味のあるオヤジがFBIと協力して本当の悪党を炙り出していくシリーズだ。
主役のオヤジと新米の女子捜査官のやり取りや、仲間のイケメンが暴走してしまう所もマダム世代にはドキドキさせられるいいキャラらしい。
「外人ってハゲてても魅力の一つにするから素敵よね……しかも海軍の経験もあって強いし、拳銃を握ってる時の躊躇ない悪人面も渋い」
少女のように目を輝かせながら熱くオヤジへの想いを語ってるが、抜け目なくエプロンに袖を通してサイズチェックをしてるのはさすがだ。
色は全体的に淡いブルーの綿素材の割烹着だが、下の方に紫陽花のプリントあり、季節柄人気だと店のおばさん一押しの品だ。
「サイズもいいし、紫陽花も素敵。農作業も捗りそうだわ……」
気に入ってくれたのか着たままの格好で洋画を見ている母に、妹と顔を見合わせて笑いが出た。
足元には王子達がいて、私はイナリを抱っこしてソファに座る。
この光景が続けばいいのだが、その時はまだ大変な事に巻き込まれるのを、半分位のレベルしか想像してなかった。
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