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辺りは暗く、エリア的に隠れる場所も多いので、現場に近い位置で扉を潜れたのも助かる。
虎の世界の想像はニューヨークだったが、港町といった雰囲気で、VRで旅行を楽しんだイスタンブールに似ている気がする。
実は世界旅行が出来るソフトがずっと気になっていて、瑠里が新作ゲームを買った直後にVRとセットで購入し、たまに自宅で旅行気分を味わっていた。
妖しい色のネオンが並び、夜のエリアだと分かりやすい兎の世界とは少し違っている。
宮殿みたいな建物と敷地内は柵で囲まれていて『ナントカ伯爵の自宅』と言われても不思議に思わない。
一般の者は近づくなの空気がプンプンで、道路の脇に止めてある車も、VIPが乗ってると言わんばかりに黒塗りで中の様子は全く見えない。
「やれやれ、入口のベル鳴らすと射殺されないよね?」
「なんかあの建物だけ雰囲気違いすぎ……あっ、ワオンさんがバイトしてる喫茶店あれじゃない?」
門に近づくと、道路を挟んだ向かい側の建物がそれっぽく見え、瑠里にしがみついた腕を緩めたが「後にして」と即座に注意された。
入口に用心棒らしき人物が二人立っていたが、軍服のような格好で警察かと勘違いしそうだ。
見た目は人と変わらないが、ガタイが良すぎだし感情のない瞳は恐らく虎人間だと思われる。
滋さんの紹介だと告げると分かりやすく怪訝そうな顔をされた。
インカムで誰かと話をし、上から下までジロジロと見られてから、門の隣にある地下の階段を指さされた。
細く急な石の階段は、後ろから誰かに背中を押されると、転落死しそうに長い。
単純な感覚だと地下二階分くらいは下ってそうだ。
「地味にキツイね、体力テストされてんのかな?」
「足音しない靴なのに、異様に反響してるのも気になる」
更に下って行くと明かりが殆どなくなり、地獄に繋がってそうでゾクッとした頃、小さなドアが見え瑠里がドンドンと叩いた。
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