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ぶっちゃけ入口のピアス野郎より、目の前にいる男の方がずっと強い。
練習用の双棒を手にしたら自らゴングを鳴らしたようで躊躇してしまう。
『こいつ……タダモンじゃない!』
獲物を見据える目は肉食というか、さすがは『虎』といった貫禄もあるし、動き方を間違えると負傷するのが確定だと悟ってしまう。
敵の強さも分からない以上、稲膜を張ったところで突き破ってくるかもしれない。
お互いに距離を保ち、練習用の双棒に触れようとすると、後ろから空気を読まない声が飛んできてビクッと動きが止まる。
「般若のくせに睨めっこで負けてんの?さっさと殴り合いしたら?こっちはテスト合格したし待ちぼうけなんですけど」
「うるさいよ!こっちの方が比べ物にならん位レベル高……」
言い終える途中の不意打ちに、稲膜を張ろうとしたが、あまりの速さと勢いに思わず犬螺眼で弾き飛ばしていた。
手を前に組み壁にぶつかっていたが、相手が怯んだ隙に飛び掛かる。
みぞおちに連打で拳を入れ、ヨロッとしたタイミングで軽快に踵落としを決め銃を奪い取った。
「………」
「えっ?銃奪ったのに、合格にならないんですか?」
真ん中の男は無言のままで微動だにしない……というより顔色が悪そうだ。
あれだけ殴って蹴ったのに、相手がヨロッと身体を起こすので条件反射で走る。
躊躇なくこめかみに銃口を向けると、お前も合格だと両手を上げ、そいつが返事をした。
訳が分からずポカンとしてると、俺が用心棒を仕切ってる獺祭だと手を出され、両手を添え丁寧に銃を返した。
真ん中にいた男はダミーで、シレッと面接官に当たるなんて、やはり『引きがいい』みたいだ。
「早速だが今日から働いてもらう。お前はネモフィラ、姉はミルテだ」
「ラ――ジャアッ!」
瑠里はノリノリだったが、私は潜入に成功出来たものの……滋さんのバイトは二度と引き受けない事と、ウチのリーダーの安否が気にかかっていた。
部屋の奥のエレベーターに乗り、改めて明るい場所で見る虎人間は目が鋭い……というかギロッと睨み付けられてるようで、田村さんよりも強面かもしれない。
角度によると洋画に出てくるボディガードに見えなくもないが、私達がここに並んでいるのは違和感しかなかった。
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