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「ええなぁ、最高や!ワシの勘と同じ奴やったし、姉ちゃん狐みたいなワザ持っとるから欲しいな。まぁ、こいつは戻ってから始末するとして……これ駄賃に取っとき」
封筒を差し出され「おおきに」と言って立ち去ろうとすると、名前を聞かれたので一瞬迷ったが「ミルテ」と答えておいた。
「ワシは九平治や……」と言って名刺を渡されると同時に、両手で手を挟まれ顔を近くに寄せられた。
『怖っ!もろ虎じゃんっ!』
急に臆病風に吹かれた私は、そそくさと部屋を後にしたが、大きな笑い声が背中越しに聞こえたのでギクッとしてリーダーに話しかけた。
「はぁ、やっぱ虎って怖いですね。肉食って感じで腕食いちぎられそう……リーダーは馴染んでますけどね」
「いや、お前の方が同類に見える。あと、リーダーは止めろ。ここでは特別に苗字か名前呼び捨てでいい」
「……分かりました。朝霧」
「なんかお前の部下みたいでムカつくな、名前にしろ」
悟と呼ぶ方が馴れ馴れしい気もするが、それは追々慣れていくとして……何とか営業時間終了まで仕事をこなし、パネル部屋に戻ったのは午前八時を回った頃だ。
シャワーと着替えを済ませ、木村さんに挨拶すると「コーヒー飲んで帰って」と部屋を指示された。
パンも用意してあり、早速頬張って疲れを取る事にした。
イザリ屋のパンはお腹も満たしてくれるが、疲れや体力消耗も戻してくれる特別な品だ。
考えた人は凄いと思うが……どんな人かは想像したくないけど、毎回変わらず美味しい。
「お前ら明日は休みだろ?滋さん来るし――ってか、何で瑠里はフロアにいたんだよ」
「……まぁ、料理も食べれるしあそこで見張った方が近いじゃん。私は用心棒でもアンタらみたいに怖くないし、小遣い貰えるからウハウハだよ」
「えっ?!フロアに居たのに貰ったなんてズルい!」
「なんだ……姉さんも貰ったんだ。でも、間近で見てると夜の蝶って大変なのが分かったよ」
ポツリと話す瑠里はまるで『自分が蝶』みたいな口ぶりだが、モニター越しの感想は、摘まみ食いをし、女子達にコソコソ話をしていたとしか映らなかった。
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