紫陽花の花言葉

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コーヒーを飲みながら紫陽花の花言葉を聞くと、待ってましたというように、スナック菓子を食べた手を払ってこちらに来た。 「紫陽花はね、いい言葉の方は……元気な女性とか強い愛情だけど、寒色は冷淡とか近づきがたいとか無情とかだね」 「ふぅん、いい言葉とよくない言葉あるって知らなかったな。お見舞いの時とか気をつけよう」 「そうだね、上司で紫陽花が似合いそうな人思い出したけど……」 プッと笑って妹と顔を見合わせたが、母は不思議そうに首を傾げていた。 冷淡で無情……といえば立花滋さんがダントツで一位だ。 今回のバイト話を持ち掛けてきた張本人で、用心棒は楽な仕事じゃなかったし、次からは絶対に断ろうと決意を固めたばかりだ。 職場に向かうと木村さんがいつものように迎えてくれ、ロッカーで着替えを済ませた。 いつもながら機転の利きが半端じゃないと思うのは、虎の世界から帰った日、小遣いの封筒をカゴに入れてシャワーしたまではいつも通り。 でも消毒後に、異世界の口座作っておいたからと微笑まれ、なるほどと感心させられた。 どの位の金額とか価値とかはさておき、家に持ち帰れないし、かといって置く場所にも困る。 両替とかもよく分からないし、木村さんに相談しようと思った矢先だったが、宜しくお願いしますで解決した。 黒のパンツスーツに身を包み、パネル部屋から虎の世界へ向かう。 リーダーは少し先に入るようにしていて、芸能人カップルのように一緒の時間を避けて潜入している。 顔に似合わず仕事は真面目なので、せいぜい頑張ってもらいたい。 二日目だが潜入捜査が続いてるのは、まだ敵の尻尾を掴めてないと判断できるが、私達には関係ないので用心棒の仕事に集中するのみだ。 門の入口に立ってる虎人間に『紫陽花の従業員カード』を見せると、門を開け裏口を指さされる。 初日とは違い職場の人間と分かると、地下の階段は通らなくてもいいらしい。 「さて、今日も頑張りますか」 「瑠里、今からコーヒー頼んでフロアで寛ぐ気でしょう」 「――バレた?」 あえて職場で飲んでなかったし、夕飯も少なめだったので睨んだ通りだ。 でも悪びれもせず堂々と言われると貧乏……というより、ホステスに向いてる気がしてため息が漏れた。
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