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呼ばれてた用心棒も部屋に戻って来て、何事もなかったように取り繕われていたが、皆の表情は暗くどんよりとした空気の中モニターをチェックしていた。
「瑠里と悟……あと四人ぐらいフロアに出てくれ」
喧嘩が起こったのはモニターでも確認できるが、個室からも呼び出しのベルが鳴り、思わず私行きますと答えていた。
「おぅ、悪いな。後でもう一人向かわせる」
バタバタとしてる空気の中、練習用の双棒に手を伸ばし、防音設備がバッチリな個室エリアは静かすぎて逆に緊張してしまう。
手早くカードキーでドアを開けると、一歩足を踏み入れた所でホステスが飛んできて咄嗟に抱えた。
「ちょっ、危ないじゃないですか!女性をブン投げるなんて止めて下さい!」
涙を浮かべる女性を部屋から逃がし、用心棒は何をしてたのか見渡すと、椅子の後ろに横になった足が見えた。
「まさか……殺したんですか?」
「はぁ?ちょっと手が当たっただけでノビるとは弱っちい奴だ。だから、五十は譲れない!」
商談の最中に揉めたようだが、お酒が入ってるとはいえ、店の者を殴った時点で退出してもらうルールだ。
「申し訳ございませんが……今日の所はお引き取り願えますか?」
虎人間が数人いるのに、応援が来てくれないとヤバそうな気がしたが、ポーカーフェイスで言わないと危険な空気なのは伝わってくる。
「うるさい!こっちは大金払ってる上客なんだよ、ガキの分際で商売の邪魔するなら……」
バンッと机の上に飛び乗ったかと思うと、瞬時に手を伸ばし、私の首を壁伝いに持ち上げられた。
「心臓引き抜いて食ってやろうか?」
威圧的な目で睨まれ、首の骨がきしむぐらい強く握られ窒息しそうだ。
全身の血が熱くなる気がしたが数秒で引くと、頬の筋肉が緩んだ。
ククッと笑いが漏れ、握った拳を虎の口にぶち込むとボクッと鈍い音がした。
「ーーごあぁぁぁ!」
両手で口元を押さえ、のた打ち回っている。
「いやぁ、言葉が通じない悪党だと遠慮がいらなくて助かります。その前歯なくなった虎を連れて、皆さん部屋を出てもらえますか?」
自分でいうのもなんだが、恐らく『魔王』みたいな顔だったと思う。
今日あった嫌な事を、当たり散らすように虎達を見据えると『逆らうと殺す』という感情を読み取られたのかもしれない。
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