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『毛ちゃんと剃ったはずだけど……』
こんな事を心配してる時点で女子力は低いが、脇に剃り残しがないか気になり、席に着く前にホステスさんに声を掛けた。
「あの……」
「えっ?」
「きょ、今日ノースリーになる予定じゃなかったんで、剃ってはいるんですがその……毛が残ってないかなって」
一瞬キョトンとした目になった後プッと吹き出されてしまい、アハハと誤魔化して笑ってみたものの、恥ずかしくて俯いてしまった。
「私はダリヤ、あっちの方を指さしてみて」
「……は、はい」
意味も分からず首を傾げながら腕を伸ばすと、OKというようにウインクされ、脇チェックをしてくれた事が分かった。
『さり気なさに感動…』
変な事でジーンとしていると、ようこそ紫陽花へこちらは新人のミルテです失礼しますと、慣れた様子で席に座り私は隣で棒立ちのままだった。
「ミルテちゃんはそっちに座ってね」
フォローを入れてもらい、客を挟んで座る事を覚えたが、飲み物等はダリヤさんに任せっぱなしで、愛想笑いしか出来ない自分が情けなく思えてくる。
すっかり忘れていたが、ここには八雲さんもホステス役で潜入してる筈なのに、犬の世界同様、誰なのか見当もつかない。
瑠里が離れた場所でスーツ姿でいるのが羨ましかったが、今はダリヤさんが喧嘩に巻き込まれないよう、客を見張るのが使命だと言い聞かせ注意を払う。
笑い声がする度ビクッと指が動くが、この席の虎人間はそんなにヤンチャな感じではなく、ダリヤさんに見惚れる分かりやすい反応で安心した。
トントンと肩を叩かれ振り向くと、フロア係の虎人間が立っていて、ご指名ですとお声が掛かる。
ダリヤさんはいい雰囲気で話し込んでいるので、ぎこちなく立ち上がると後をついて行った。
お酒も注げず、気の利いた話題もなく男性が興味を引くような質問の仕方も分からない。
『瑠里―っ助けて―っ!』
視線をやるとハンカチをヒラヒラと振っているので、覚えてろよとガンをくれて席の前に立った。
「よ、ようこそ紫陽花へ……ご指名を受けた新人のミルテです。宜しくお願いします」
「…………」
即座に腰を曲げ礼をしたのに無反応で、本当に私が指名されたのか不思議に思い顔をあげた。
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