88人が本棚に入れています
本棚に追加
「やだ!そんな下品な食べ方しないでよ」
クスクス笑いながら注意され、男性もコーヒーを片手に戻って来る頃、残りのラテも飲み終え立ち上がった。
「月影さん?」
「私帰ります、や……」
「約束があるんでこの後」
背後で声がして振り向くと、ニコニコした顔の死神……いや、滋さんはスーツ姿だったので目が点になりポカンと見つめていた。
でもそこに居たメンバー全員の動きが止まる位、普通にしてる分にはスラッと背の高いモデル体型のイケメンだ。
「えっ?!月影さんの彼氏!?嘘っ……」
「じゃあ時間勿体ないんで僕ら帰ります。皆さんも楽しんで来て下さい」
肩に手を置かれカフェを後にしたが、私は俯いたままで少し目頭が熱くなっていた。
死神の前で泣くと弱みに付け込まれそうなので、グッと拳を握って堪え、前を見るとエレベーターホールまで来ていた。
いつもエスカレーターを使っていたのでこんな所に……とキョロキョロしていると、社長と久々にみる八雲さんもスーツ姿だった。
「えっ?!皆さんどうされたんですか?」
「今俺見て『生きてたんだ』って顔したよね?潜入続きですれ違いだったからって、死んだ事にしないでよ?ちなみに今日は小麦ベーカリーの二号店オープンで社長と顔出して、そこのカフェで休憩してたんだけど……」
「百合さんが見えて、シンデレラみたいな目に合ってたから『誰が行くかじゃんけん』したけど、納得いかないっていうかぁ……ワシでよくね?的な」
『ポン』とエレベーターのベルが鳴り、社長の言葉は遮られたが、八雲さんがスマートに手を引いてくれ頭を胸に寄せてくれると、涙がポロポロと零れていた。
「……なんでお前が一番いい役割してんだよ」
滋さんは私がいる事も忘れ、八雲さんの腕を捻るので、バッグからハンカチを出し巻き込まれないようボタンのパネル側に移動した。
「百合、うるさいガキ共は無視して俺の胸貸してやるから……そんな顔すんなよ」
「――気持ち悪いんだよじじい」
一階に到着し『ポーン』と音が鳴ると、ドアが開くと同時に、他人のフリして走って逃げようとした。
「待って、嘘、嘘っ!ゴメン!」
社長に腕を掴まれ、傍には八雲さん達がいるし、逃げ切るのは無理と悟ったが、惨めな姿も見せてしまったので気まずくて俯いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!