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「丁度ワシら帰る所じゃし、送ろうと思ってな。百合さんは車で来たんかの?」
今日は母がイナリ達と日用品というか、ペット用品を買いに行ってるので、バスで来たがここは正直に言わない方が解放されそうだ。
「はい……では失礼します」
「またまたぁ、今日はお母さんペット乗せて車で出かけてたから百合ちゃんバスでしょ」
『なんでその事をっ!?』
ギクッとした顔で八雲さんを見ると、逆にウインクされたのでサッと下を向いて誤魔化した。
「百合さん元気が出ると思うてな。なんてったって今日の運転手は……」
社長がいつものように勿体ぶって溜めていると、ファッションビル近くのロータリーに、黒の高そうなセダンが横づけされた。
助手席側の窓が静かに下がり、運転手が誰か無意識に覗いたが、三センチ開いたところで足が車から離れていった。
まん丸の顔に、首が見えないシルエットが高そうなスーツを見事に台無しにしている。
瞬時に両サイドから腕を掴まれたので退散するのは諦めたが、サングラスをかけていても胡散臭いマジシャンにしか見えない。
「あぁなるほど。笑わそうとしてくれた気持ちは有難いんですが、笑えません……ってかイラついてきます。そんなデブじゃなくても運転できる奴いないんですか?」
「笑わすってなんだ?躊躇なくデブって言っただろ、くそガキ!」
「………」
いつもなら返す言葉が滝のように溢れてくるのに、今日は精神的ダメージがまだ回復してないのか、目を逸らす程度で止めてしまう。
八雲さんが助手席に乗り、社長と滋さんは私を挟んで後部座席に座ってきたが、背中に感じるどんよりオーラは拭いきれないでいた。
ルームミラー越しに啄が「はぁ?」という顔で睨んできたが、ボンレスも元気がないというか、フテくされているように見える。
「なんだ、言い合いして百合さんが元気になってくれると思うたのに…デブ、役に立ってないじゃん」
「なっ……」
明らかにイラッとしてるのは分かるが、キツネが怖いのか言い返さず唇を噛んで無言で運転していた。
一緒のチームで仕事をしてるので、雰囲気で何かあったと分かってしまう自分も気持ち悪かった。
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