紫陽花の花言葉

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「――で?どんな女に騙された?」 「ふん、お前も女が絡んでんのか。般若のくせにショボくれた顔してもキモイんだよ」 「……ジャケットのボタンがパツパツなのに無理から止めてるお前の方がキモイわ、隠せてねーんだよ」 「車降りろ、こらぁぁぁ!」 あえて憎たらしい顔でプイッと外を向くと、八雲さんが『まぁまぁ』と啄を宥めていた。 「何かそこまで言い合えるって妬けちゃうな、まさかデブの分際で、百合ちゃんの彼氏候補に手を挙げないよね?」 「滋兄、俺はそんな化け物絶対に嫌だ。まん丸でも可愛いと言ってくれる優しい女性がいい」 『みんなデブって言い放題なんだけど……』 さすがにちょっと可哀想になってきて、母のプレゼントの紙袋を両手で挟み、大人しく車に揺られる事にした。 目を閉じても『こんなとこで茶して大丈夫?』のフレーズがグサリと突き刺さってくる。 確かにあの時はお茶すらできなかったもんなと、嫌な過去が思い出され胸がザワつく。 『イケメンとかそういうの興味なかったっけ』も貧乏な私は毎月が崖っ淵だったので、チャラついた事を考える余裕もなかった。 最近は見た目のいい男性に、少しは免疫が出来たと思うが、恋愛対象かと言われると、自分に自信もないし片思いで終わってしまうだろう。 微々たる贅沢をチマチマ楽しむ事もダメなの?命を懸けて仕事してるんだよと声を大にして言いたくなる。 たまにカフェに寄ったり、ファッションビルにだって入ってみたい。 だって女子に生まれたんだものと、社長お得意の唄にしたい気持ちに襲われた。 『姉さん、ちょっと会わせたい人いるんだ』 何故か、さっきまでお茶をしてた場所で瑠里と待ち合わせをし、妙に緊張してドクンドクンと鼓動が高鳴っている。 彼と腕を組んだ瑠里がこちらに気づくと、小さく手を振り、つられるように苦笑いしながら同じ仕草をする。 彼がセルフカウンターに注文をしに行ってる間、瑠里に何でここで待ち合わせしたのかと聞くと、写メに撮りたいと予想だにしない返事に固まっていた。 ――これは夢だ。 夢の中でもハッキリ分かる程不自然なシュチュエーションだった。
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