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消毒の通路を渡り、シャワーと着替えを済ませると、木村さんの指示で医務室に向かい、検査のドームの中で目を閉じていた。
虎の世界の任務はあれで終わりかもしれないが、ダリヤさんの今後や、獺祭や他の用心棒もどうなるのかが気になる。
獺祭は真面目に店を切り盛りしていたし「血の気」が多いあの世界では、喧嘩でも殺しは日常茶飯事。
非力な女性が無闇に殺されるのは納得いかないが、私では何の力にもなれない。
お金のある各世界の警察組織なら『イザリ屋』に陰で仕事を頼む事が出来る。
でも普通に生活してる人は、その警察の末端にお願いするしかない。
「時代劇なら、シーズンによっては殺し屋が小銭で始末してくれるんだけどね……」
なんて言ってるとカバーが開き、身体が楽になってるのに気づく。
「お疲れ様、結果は思った通り異常なし。コーヒー淹れておいたから部屋で飲んで帰って」
木村さんが部屋を出たので、携わってくれた残りの人……と言ってもマスクで顔は分からないが、お礼を言い小走りについて行く。
社長と瑠里が戻らないので、もしかすると鷹の世界に行ったのかと嫌な予感がする。
コーヒーを口に含むと、今日は軽くて飲みやすいのでアメリカンをイメージ出来る。
「……美味しい」
「あまり負担にならないように、体力回復のハーブも入った特製ブレンドだよ」
どこの店でも買えないが、それこそここでしか…いや、ここで勤務してる一部の人しか飲めない一品。
そんな希少なコーヒーを、いつも飲ませて貰い感謝の気持ちでカップを両手で持つ。
「百合も大変だったんでしょう?」
『戻って来て本当に良かった』という表情はお母さんみたいで、自然と顔が綻ぶ。
ウチの家族でも言ってくれない言葉や態度に、ジーンと胸が熱くなりそうだ。
機転の利く木村さんは、気にしていた虎の世界の今後を、雑談するの感覚で教えてくれた。
トップから幹部に推薦された獺祭だったが、それを断ると『クラブ紫陽花』を委ねられ、オーナーとしてこれまで通り働くらしい。
それを聞くと目頭が熱くなり、ダリヤさんも人質になった心の傷を癒しつつ、あの場所の綺麗な紫陽花で居て欲しいと目元を拭った。
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