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「いえ、あの、指名されたのはすべて知り合いにだけで……」
更に吹き出す啄に拳を握ったが、和音さんの表情は少し険しくなった。
「知り合いにあの姿を見せたんですか。社長達はいいとして、他に誰と時間を過ごしたのか気になります……」
「ーーえっ?!」
優しい和音さんのそんな言い方に驚いて、リーダーも啄も同様に目を丸くしていた。
「いえ、一人だけ蚊帳の外だったもので」
首の後ろを手で掴みながら誤魔化していたが、それならこっちだって、ファンに行列されてたじゃんと言いたい。
「なんだ、この空気、ラブコメ展開になるのか?」
リーダーが鳥肌でも立ったように、両腕をギュッとしている。
「それは無理だろ?ライバル達と殺し合いになってコメディにならない」
人をネタに好き放題始めているが、そんな事言ってるから彼女できないんだよと、ため息をついた。
「ラブミステリーとかデスコメとか?」
リーダーは閃いたように手を叩いているが、デスコメに至ってはラブの要素が完全にない。
木村さんが入ってくると、話は強制的に打ち切られたが、予想通り鷹の世界にヘルプに入るようだ。
啄とリーダーは外され、私と和音さんという『デスコメチーム』なのは少し気まずい。
同じ刺繍で付き合いも長くなるし、ギクシャクした感じは取り除きたいのもあるが、啄とは違い素直に謝れそうな気もする。
リーダーと啄は別室で他任務の説明を受ける為、木村さんと部屋を出て行った。
今だとタイミングは分かっても、何を謝ればいいのか分からず上手く言葉が出てこない。
彼女でもないのに『ごめんなさい、仕事で仕方なくホステスに』なんて言うと、みぞおちに拳をくらい調子に乗るなで終わるかもしれない。
背筋がゾクッとして腕を擦りながら、改めて考え直す。
和音さんはそんなキャラじゃないし、苦笑い程度で済むかもしれない。
でも優しいタイプに限って『そんな事ないですよ』と言いつつ、自宅に帰ると包丁を研いで気を紛らわす一面も……なんて本気で怖い。
口に手を当て動きが止まると、心配そうな顔でどうかしましたかと逆に声を掛けてくれた。
「いえその、怒らせてしまったようで……ごめんなさいって思って」
目を泳がせ、結局ざっくりとしたお詫びしか出てこず、コミュニケーション能力の低さに我ながら呆れていた。
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