鷹人間の眼

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ところが和音さんは、慌てたように顔の前でブンブンと手を振り、僕こそごめんなさいと謝ってくる。 顔に赤みを帯び、引きつっても笑みを見せようと頑張っている姿も可愛い。 「百合さんが彼女でもないのに言い方にトゲがありました。短期留学から勝手に心配になってて……」 「私こそ、アイドル並みの人気の和音さんが遠く感じてました」 相手が素直だとつられて言ってしまい、ハッとして前を見ると、和音さんの顔全体が赤くなっていた。 こちらも顔の温度も上がりそうで頬を押さえると、机の前に王子がタタッと上がり、ジトッとした瞳で見られ我に返った。 「あ、イナリが『ウチの姫に手を出すな』って睨みを利かせてますね」 和音さんは誤魔化すように立ち上がり、コーヒーを淹れる為に後ろに向かった。 「イナリ、心配しなくても誰からも相手にされないよ。だって……愛犬にすら、前足で拒まれるレベルなんだから」 イナリの顔を持ち、目を近づけていくと『止めてぇ』という表情はしたが、今日は前足は出てこなかった。 意思疎通が出来てるようで嬉しくなり、フフッと笑ってから『やっぱ会話できるんじゃない?』と首を傾げた。 様子を見ていたキセロもスタッと登って来たが、私の前を左右に動き、品定めするように振り返りざま数秒止めるのがイラつく。 『お前レベルなんて大した事ないんだよバ―カ』 と言ってるようで、気づいたら首を掴んで持ち上げる『虎の世界』のスタイルをとっていた。 「お前はここで留守番な」 『じょ、冗談だって百合ちゃん可愛い、あんたは可愛いって言っとけばいいんでしょ』という仕草にしか見えない。 「なんでこいつの態度は手に取るように分かるんだ?その内、会話出来そう」 性格も根性も捻くれてるキセロと、会話が出来る様になると逆に楽しいかもしれないが、一日目で果し合いを申し込みそうな気もする。 木村さんがリュックを持ってきたので、王子達を連れて行こうか迷ったが、つなぎの足首部分を左右から噛んで離さない。 「オヤツは一応チェックして入れておいたよ」 足元にいる王子達を引きずって歩いていたが、一緒に連れて行くと言った途端、お座りをしてドヤ顔を決めていた。
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