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『――ん?』
遠くからでは気づかなかったが、運転手が通り過ぎた時、微かな違和感を感じる。
姿でも目つきでもなく、私のエリアの中で、小さく警告音が鳴った気がする程度の信号だ。
もっとブー、ブーと音を立ててくれると瞬時に走るのに、これでは堂々と動けない。
仕方なくトラックの方へゆっくり歩き出すと、王子達もトコトコついて来た。
トラックのエンジンがかかり、高さもあるので運転手の顔はよく見えない。
これ以上近づいても怪しまれるし、追う事も出来ないので、キセロを投げるかどうか迷い目をやった。
『こいつ発信機の代わりをしてくれないかな』
表情で嫌な予感がしたのか、キセロはササッとイナリの後ろに隠れた。
トラックはガソリンスタンドを出てしまい、呆然として見送っていると、社長のトラックの後ろにいたワゴン車の窓が静かに下がった。
「君、可愛いね。良かったら送るから乗らない?」
家まで送るような気軽な声かけだが、ここは荒野の砂漠地帯といっても過言ではない辺鄙な場所だ。
そして『送る』と聞こえたが『どこまで』とは言われてない。
声の主は死神……いや、滋さんだと分かったし出来れば乗りたくない。
「あの……」
「いいの?このまま逃がして。この仕事で『まぁいっか』は足元すくわれるか命取りになるよ」
グッと拳を握り助手席のドアを素早く開けると、乗り込んだと同時に、王子二匹も膝の上に乗った。
すぐに車は発進すると、王子達はトラックじじいと孫チームの方が安全だったのにと言いながらシートベルトをつけた。
後部座席には細長い物体がカバーに入っているので、例の物は組み立て済みで準備も万端らしい。
「良かった、ずっと一人でドライブだったけど、テンション上がりそう」
「仕事ですから、それにボディガードも居ますので」
ルームミラー越しに目を合わせた滋さんは、ニタッと不気味な笑みを見せ、王子達も野生の勘が働いたのか少し後ずさりをした。
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