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「うむ……あの世界はちょっとレベル高いような気もするの。刺繍のレベルは上げたけど、ゆっくりスキルアップさせたい」
「俺、調べて目星は大体付いたから、次のステップにね。百合ちゃんは死体安置所を見張るのと夜の仕事ってどっちがいい?」
『どっちも嫌だ』と分かってるのに聞いてくる辺り本当に悪魔か、死を予告する死神にしか見えない。
前方を見ると笑ってる啄とミラー越しに視線がブツかったので、ワザと聞いてみた。
「ボンレスはどっち?私はまだ夜の仕事かな」
「俺に振るな!巻き添えは御免だからな、まだ死ぬ訳には……」
「ちょっと待て、そんな危険な場所ならお断りします!」
帰りたい気持ちを汲み取り、助け出してくれたとはいえ代償が大きすぎるのは啄の態度で分かる。
バイトどころか一歩間違えたら死にますよと烙印が押された気分だ。
「怯えなくても大丈夫。啄、百合ちゃんをビビらす言い方しないで……ノド潰すよ?爺さんは遊びがてら様子見に来たら、美人揃いだし」
一瞬で車内の空気がピリッとした気がして、背筋がゾクッとなり身震いしそうだ。
啄も口を固く閉ざし、後ろを見ないようにしている。
そんな中ムフフと笑って顔を赤らめるキツネ…いや、社長だけは一人ヤラシイ事を考えてるに違いない。
「ワシが客で様子を見に行くなら、虎の世界と言っても大丈夫だろう。人に近いエリアだし、百合さんはなんせ、虎や竜を背中に背負ってるような男気の…」
「誰が男だ!どうせそんな扱いだよ私なんて、貧乏人は、金持ちがやらない汚れ仕事するんでしょ」
「おーおー、引きづって拗ねとるのぅ。安心せい、ウチは全部『汚れ仕事』じゃ!でも掃除しに行くから後はスッキリ綺麗なもんじゃろ?」
二イッと笑う顔は、夢を思い出してしまい目を背ける。
今度は左隣の死神が留学の時に仲良くしてた奴だけど……と、ネチネチ質問してきて、事情聴取を受けている気分だった。
職場に着くと啄以外のみんなで受付に顔を出し、木村さんが笑顔で迎えてくれた。
社長が土産の包みを渡すと、あらすみませんとお礼をいう姿は、シルエット的にウチのドラム缶を見てるようで笑みが漏れる。
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