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滋さんは銃で応戦していたが、私はイナリの事が気になって運転すら集中できなくなっている。
涙を零しつつ、自分の周りに近づいた敵だけは何とか始末していたが、ふと左肩に乗っているキセロの事を思い出した。
「……そういえば、お前はこんな状況で何を人の肩に座って見物してやがる?」
片手でハンドルを握りつつ、もう片方の手でキセロの前足をグッと握り、膝の上まで引きづり下ろした。
チラッと私の顔を見上げ渋々ボンネットに移動すると、霧に紛れたように大蛇の姿になり、空を優雅に舞っていた。
「誰が寛げって言った――!早く戻ってこい、そして背中に乗せろ!」
大声で叫ぶとあえてゆっくり近づいてきたが、車のスピードなんて関係なく、ドアの横を泳ぐようについて来た。
何気なく周囲を見ると、滋さんや鷹人間も、急に現れた大きな物体に絶句して、一瞬動きが止まっていた。
「よぉし、もう少しこっちに近づ……」
「百合ちゃん、ルームミラー見て」
「えっ?!」
キセロに乗ろうと必死だし、まだハンドルを持ってたので、チラッと目で確認する。
球体の風を起こす物体が、猛スピードでこちらに向かい、途中鷹人間を捉え……いや、始末しながら接近してくる。
「イナリッ!」
目頭が熱くなり手で涙を拭うが、勢いが弱まらない球体を見ると、若干嫌な予感もする。
「滋さん私のリュックからオヤツ出して下さい」
「う、うん」
銃ではなく『チーズたら』なので、全然格好よくないが、受け取ると封を開け、つなぎのポケットに入れておいた。
ドンッと音がして見上げると、いつの間にか増えている鷹人間が、先程の爆弾を手に頭上にいる。
「滋さん!何とかして下さい」
音のした方をミラーで確認すると、キセロが尾をドアに軽くぶつけ教えてくれたようだ。
「…………」
右側を見ると、かなり大きい顔だが、キセロもこちらを黙って見つめている。
全体で三十メートルあるので、恐ろしいかもしれないが『いいとこあるじゃん』とペット愛を感じかけた。
チーズたらを二本持ち、片手を外に出してみる。
無意識に近づいて来て、パァと開いた口が大きすぎて、頭ごと飲み込まれそうになった。
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