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「いい物を見せて貰い、興奮した礼にこれを二人に渡そう」
「いや、なんか、誤解招く言い方止めて貰えませんか?それにお礼は本当にいりませんので」
ハッキリとお断りをしたのに、八雲さんが代わりに受け取りお辞儀をしている。
そのうち会おうと残し、部下とどこかへ飛び去ってしまった。
膝を折って地面にしゃがみ込むと、脱力したような溜め息を漏らす。
「そんな残念な顔しなくていいじゃん、月影姉妹に遠慮は似合わないよ」
「また化け物に変身しそうで……」
雁木の手元を見た時点で何となく今まで貰ったお守りとか、袋とか羽根等トップ関連から渡された『チカラ』のようでゾッとする。
バーから出てきた滋さんは、まだ怒ってるように見え、八雲さんは後づさりする私の手を引き盾にされた。
「なっ、何するんですか」
これ以上変な事に巻き込まれまいと、腕を振りほどこうとした。
「あいつは俺のターゲットって言ったよね?」
滋さんが冷たい目で近づいて来るので、思わず私まで後ずさりしていた。
「外に逃げ出そうとしてただろ?俺は悪くない、仕事だからね」
「俺が逃すとでも思ったの?」
静かな口調だが、何となくまずい空気なのが伝わるので『喧嘩なら私が離れてからにして下さい』と心の中で思った。
「百合ちゃんごめんね、せっかく見せてあげようと思ったのに八雲が邪魔して」
「い、いえ、見たいとか思ってなかったし大丈夫です」
何で緊張するのか分からないが、話そうとすると動揺がダイレクトに言葉に出てしまう。
「ならいいけど……八雲は、いつまで百合ちゃんにくっついてんの?」
「何それ!今回は自分ばっか目立って、陰で頑張った俺に全然ライトが当たってない」
「…………」
ただの感想で言い返してる八雲さんに呆れたが、とうとう扉を出すまで手は離されなかった。
でも扉を潜る時にイナリがクルクルゥ…と威嚇の声を出し「みんな器が小さすぎる」と頬を膨らませ、渋々腕は解かれた。
シャワーと着替えを済ませ指示された部屋に入る。
コーヒーやパンの他にステーキや赤飯がテーブルに置かれ、トラック運転手の孫……いや、瑠里ががっついていた。
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