87人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
ミルテにご指名
裏口から用心棒の控室に入ろうとすると、店内の様子に異変があるのが分かる。
隠そうとしてもフロアに立ってる従業員の顔が引きつっているし、ホステスの控室からはすすり泣く声が聞こえる。
部屋の扉を開けても用心棒は二人しかおらず、監視カメラも個室の一つが消されていた。
「お疲れ様です、何かあったんですよね?」
「おぅ、三人殺られた。首から上グチャグチャ、マジで虎人間の喧嘩ってヤバいわ」
「……それ以上言わなくていいです」
話してくれた先輩は何人間かよく分からないが、リーダーも居ないのでかり出されてるのだろう。
処理係はいるようだが、それとは別に客の対応にも追われそうだ。
「瑠里大丈夫?」
血を見ると気分が悪くなる妹は話だけでも『もういい』と口を押えるタイプで、今も少し顔色が悪い。
部屋を出て飲み物を取りにキッチンに向かって歩いたが、女性の泣き声が大きくなっていて、胸が締め付けられそうな気がした。
無理もない、一緒に接客してたなら、目の前で同僚が殺された事になる。
恐らく一瞬の出来事で気づいたら返り血を浴びてたとしたら、恐怖と驚きと……ショックは計り知れないだろう。
キッチンの人に缶コーヒーを貰い、用心棒の控室に戻ろうとすると苦い表情をしたリーダーとバッタリ出会った。
「聞きました、大変なんですよね」
「あぁ……俺も入ってりゃよかった」
ドンッと拳を壁に叩きつけながら悔しそうに呟くリーダーに何も言えず、俯いてドアを開けた。
気持ちは分かるが、誰が控室にいても間に合わなかったと思う。
三人を一瞬で殺せるって、しかもただの喧嘩でなんて普通なら想像もつかないが、何度も化け物を見ているので気を引き締めるしかないと分かっている。
でもこんな出来事が日常茶飯事だといたたまれない。
かといって、ここでずっと用心棒をして殺しをなくす事も出来ない。
任務が終われば帰りこの世界はそういうモノだと諦めるしかなく、すぐにはどうにも出来ない事も理解してるが、すんなりとは飲み込めないでいた。
「瑠里、飲み物貰って来たから」
「有難う」
元気な瑠里が遠くを見る様な目で缶を受け取ったが、中々口をつけないでいると消されてたモニターがパッと映り、何事もなかったように綺麗な部屋に戻っていた。
最初のコメントを投稿しよう!