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どこまでも灰色に染まる都の道を抜け、四条大宮に着くと、遣いの者に文を手渡した。
ほどなくして二条様が、扇で顔もお隠しにもならず裸足で飛び出して来られた。
「お前! あれが、あの弱々しい文が、本当にあの人の綴ったものだというの⁉︎」
「ねえさ……」
乳飲み子のために寝起きされ、髪もろくに櫛けずらずとも、熟れた桃が弾けたようなその芳しさ。
「あれはねえつまりあれでしょう? 駆け引きよね、そうよね? 元気なくせに死ぬ死ぬと言って、私の気を引こうというのでしょう? そんな文なら私だって、いろんな男に散々書いたわ」
とは、ご自分に言い聞かせるようにして、私の肩を強く揺さぶる。
「ねえさま……」
「こんなの、あの人のただの女々しい戯言だって、そうだと言ってよ! お願いよお前、お願い……」
私に取りすがり泣きだされたお体は小刻みに震えていた。
私はその背をぎゅうと抱きしめた。
そうすることしかできなかった。
『──思ひ消えむ 煙の末をそれとだに
長らへばこそ 跡をだに見め
なにを弱気なことをおっしゃるの。
煙の後先がどうなるかなんて、生きていればこそ見届けられるというものではありませんか。
どうかお心を強く持って下さいませ。』
〈あまり長々と書いてお身体に障ってはいけませんから、今日はこれにて失礼いたしますわ。
また、お便りを書きます〉
二条様のお返事を差し上げると、御室様は、
「はは、叱られてしまったようだ。あの方らしい、よい文だ……」
ひとつひとつの文字を眺めて、うっとりとため息をつかれた。
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