六、魔窟

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二条様はそれから、お手製の愛らしい猫の張子を私の几帳の端に下げ、珍しい唐菓子を下さった。 白っぽく丸いその菓子は、挽いた小麦に甘味と水を加えて蒸したもので、点心と呼ぶという。 口に運べばふかふかと柔く、噛みしめると、ほんのり青臭い植物の甘さが香ばしい。 「美味しゅうございます。私には勿体ないほど」 恐縮してつい頭を下げると、 「まあ謙虚だこと! 私なんて、あれも欲しいこれも欲しいって、私の手に入らない物がある世の中なんておかしいと、いつも怒っているのに」 屈託なく高笑うので、私もつられて笑ってしまった。 無邪気に物をねだれる人は、きっと可愛がられる人だと思う。特に好意的な男性からは。 猫みたいに気まぐれで高飛車なところも、この方の魅力のひとつに違いない。 「ねえさまは、とても素敵だと思います」 「お前は本当に良い子ねえ」 気をよくした二条様が、そらもっとお食べ、こんなもの自分は食べ飽きているからと、手ずから点心をちぎっては私の口に放り込む。私はむせりそうになりながら、懸命にそれらを咀嚼し飲み込んだ。 どうにも憎めないお方だ……それどころか、惹かれてしまう。 私から御室様を連れ去った、そんな恐ろしい魑魅のはずなのに。今はお二人が寄り添う姿を想像してみても、もはや自分がどちらに妬くべきなのかも、分からないなんて。 息を飲むほど妖気溢れる二条様。 私とてあやうく堕ちそうになったのに、あの純粋な御室様が、恋に落ちぬはずがなかったのだ。 だから妬いても仕方がないのだ。そう、仕方ない……。
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