柔らかくて甘く冷たい舌

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ヨシキは何事もなかったように寝転んでテレビを観ていた。 時折聴こえてくる笑い声は、バラエティー番組を観ているのだろう、と推測できる。 なぜ、こんな時にバラエティー番組なんか? 自然と皿を拭きあげる手に力がこもる。 「ねえ、明日出ていくわ。早い方がいいでしょ」 ヨシキはこっちを見もしないで「ああ」とだけ言った。 本心から明日、なんて言ったつもりじゃなかったのに。 「……ねえ、あたしよりなんでそのコ、なの」 暫く固まったように動かなかったヨシキの背中が、やっと動く。 「……なんでそんなこと聞くの」 「知りたいからよ」 ヨシキは頭を掻きながらもろに面倒くさいといった顔つきをしてあたしを見た。 「アイコは、悪くねえよ。ただ……」 「……ただ?」 「カラダの相性がいい」 「……あたし、より?」 「……ああ」 あたし達の一年間が瞬時に汚された気がした。 もう一秒もヨシキと同じ空気を吸いたくなかった。 あたしは思いつく限りの荷物をキャリーバッグに詰め込んで、わざと大きな音を立てて玄関のドアを閉め、二十三時の夜空へと飛び出した。 孤独に押しつぶされそうだ。 夜空の星たちの輝きが一層あたしを追いつめる。 確かにヨシキとはマンネリ化した関係になっていたのは事実。 突然の別れ話にも、左程取り乱しもしない女など、可愛げないと思われても仕方がないだろう。 思いを巡らせていたあたしの中でふと思いがけず、口腔内にゾワゾワとした感触の記憶が蘇ってきた。 柔らかくてねっとりとした舌――
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