柔らかくて甘く冷たい舌

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あたしは無意識にリビングのドアに手をかけていた。 やめろ、やめろ、ともう一人の自分が叫んでいるのにも関わらず。 ――あたしは禁断の扉を自らの手で開けてしまった。 そこには――ベッドの上で蛇のようにヨシキの裸体に絡みつく、蛇女――ユキナが、男の唇に歯を立てながら長い舌を駆使して生気を吸い尽くすように愛をむさぼっていた。 ユキナ――この世で一番再会したくなかった女―― ユキナはあたしを視界に映すと、妖艶な瞳でニタリと微笑んだ。 ヨシキにもあたしが視えているはずなのに、虚ろな瞳の中には何も映っていないようだった。 「……ああ、アイコ……どうしてここに」 吐息交じりのヨシキが、行為を止めることなく、そう言う。 心も身体も張り裂けてしまいそうなのに、あたしは二人から目を離すことが出来ないでいた。 「アイコ?」 クスッ、とユキナが笑った。 「そう、あんた、今はアイコって言ってんだってね」 ユキナの表情が増悪に満ち、あたしを汚いものでも見るような顔で吐き捨てるようにそう言った。 それから二人の身体の動きは段々激しくなる。 騎乗位で動く二人の裸体は汗でテラテラと湿り気を帯び、ユキナの細くしなった背中に雫がひとつ、ふたつ、と滴り落ちる。 ヨシキはあたしが聞いたこともない野獣のようなうめき声を上げ、ユキナは狂った化け猫のような喘ぎ声を出し、二人同時に果てた。 汚いのはどっちだ。 こんな愛のない行為、ただの動物同士の交尾にしか見えない。 あたしの心が次第に凍り付いていくのを感じた。
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