柔らかくて甘く冷たい舌

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小さい時からユキナはこうやってあたしを支配するようにキスをする。 そしてこのキスが世界で一番あたしをエクスタシーへと導くことを、ユキナもあたしも知っている。 離れたくても離れられないあたしの半分。 増悪は強い愛情と裏表。 あたし達はお互いを貪るように吸い付き合う。 「愛してるのはあんただけ。アイナ、あんただけなんだ」 懇願するようなユキナの声がした。 ユキナが突然小さな少女のように感じられた。 見捨てないで、と震えて泣いているような存在に感じた。 突如、あたしのアイデンティティをここに見つけた気がしたのだ。 自然と固くユキナを抱きしめる。 そしてそんなあたしの変化をユキナも察知したように、さらにきつく固く抱きしめてくる。 「おかえり、アイナ......あたしのアイナ」 「ユキナ......」 長いこと離れていた二つの心が一つになる。 この瞬間をずっと怖れていた。 そして、ずっと待っていた。 「やる? アイナ」 ユキナの細くて長い指があたしの首筋の後ろをまさぐる。 あたしは、ゆっくり頷いた。 「罪も、半分こ、だね」 ユキナは幸せそうに笑う。 ユキナのこんな笑顔、初めて見た。 あたしは、これでいいんだ、と納得した。 あたしがこのコを責任持って守るしかない。 あたし達はキッチンから持ってきた包丁の柄を持ってお互いに握り合った。 しゃがみこみ、倒れているヨシキの胸に包丁の先端を合わせる。 「アイナ、いくよ」 あたしは静かに頷き、包丁を握る手に力を込めた。 あたしの手に被さっているユキナの手の中に湿った熱を感じる。 「せーのー!」 あたし達はお互いの掛け声で腕を振り下ろした。
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