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がたん、がたん、がたん……。
ここはどこだろう。 電車の中? いつの間に電車に乗ったんだろう。
私はいまいち働かない頭を押さえながら、ぼんやりと目を開いた。どうやら眠っていたらしい。
窓の外に映る宵闇の空を虚ろに眺めながら、私は顔を顰めた。
電車には、正直良い思い出がない。こんな夜の電車は、嫌な記憶を呼び起させる。私はもうひと眠りして目的の駅につくまで不貞寝してやろうと思った。できなかった。
寝ぼけたように濁った頭は、私の言うことを聞いてくれない。眠ろうとして眠れず、思い出したくない思い出を思い出してくる。本当に勘弁してほしい。
あれは小学生の頃だったか。私が祖母と一緒に遊びに行った時の話だ。
どこに行ったんだったか、確か遊園地だったと思う。
小学生の私は余りの楽しさに酷く興奮していて、夕闇に染まる帰りの電車の中で座ったままいつまでもはしゃいでいた。そんな私を、祖母は優しく見守っていてくれた。
しかし、目の前にお腹を大きくした妊婦さんとそのお子さんらしき二人組が来た時に私は我儘を言った。
祖母は二人を見かけるなりすぐさま立ち上がり「どうぞ、席に座ってくださいな」と席を譲ったにもかかわらず、私は自分の席を頑として譲らなかったのだ。だって疲れていたし、自分と同じくらいの歳の子に席を譲りたくなかったのだ。
でもまあ問題はなかった。妊婦さんは「ありがとうございます」と席に座り、その子は自分が席に座りたいなどとはいわず、祖母に「ありがとう」とお礼を言った。
今思うと物凄く立派な子だと思う。自分のことだけを考えていた私とは違う。ちょっと恥ずかしくなる。
そして私は祖母が席を立ったのに自分だけ座っている、ということに耐えられずに、その立派な子に席を譲った。
祖母は「偉いわね」と褒めてくれたが、私は席に座っていたかったのだ。なので最低な私は、自分を立たざるを得ない状況に追い込んだ祖母に苛立って、つい、足を蹴ってしまった。
まさか祖母が盛大にすっ転んでしまうなんて思いもせず、またそれが原因で祖母が二度と歩けなくなってしまうなんて、私は思いもしなかったのだ。
そうだ、私は悪くない。私はそこまでするつもりはなかったのだ。だから悪くない、悪くないはずだ。
「次はー、下。下に参りまーす」
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