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第二層
がたん、がたん、ごとん……。
気がつくと、外は夜空ではなくなっていた。電灯の明かりが薄ぼんやりと誰もいない電車内を照らしている。
窓の外にはどこまでも続くコンクリートの壁があった。いつの間にか電車は地下に入っていたらしい。
途中から地下鉄になる電車なんてあったかな、と私は一瞬だけ疑問に思った。しかしなぜか頭がぼやけてうまく考えが纏まらない。何かおかしい気がする。でも何がおかしいのかわからない。
違和感の正体は不明だったけど、私の記憶はなぜか鮮明だった。
地下鉄に関連してさらに思い出したくない記憶が蘇る。記憶の滴がポタポタと垂れてきて、やがてドブ色の水たまりができていくようだった。私は目を薄く閉じた。
その時は年始か何かで、祖母の実家へ挨拶しにいったんだった。地下鉄に乗って、がたんごとんという電車の走音を聞き流していた。
中学生だった私は絶賛反抗期で、両親と一緒だったにも関わらず少し離れた場所にいた。両親は電車の席に二人仲良く座っているにもかかわらず、私は電車のドアの近くでつまらなさそうな顔をして突っ立っていた。
早く帰りたいなぁと思いながら、私は変わり映えのしないコンクリートの壁の流れを見やっていると、ふいに後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。私を呼ぶ声。振り向く。
するとそこには私の友達がいた。言ってしまえば不良になりかけみたいな子で、あまり態度がよろしくない友達だった。しかし反抗期だった私も似たようなものだったので、仲は良くないが比較的気があった。
その友達が私を見るなり、軽く挨拶をしたあとすぐさま家族への愚痴が始まった。この娘が家族に文句を言うのはいつものことだ。臭い父の事、化粧が濃い母の事、生意気な弟の事。文句はコンクリートの壁のように澱みなく流れ出てきた。
そして私もまた、彼女に合わせて家族の愚痴を言った。やたら構ってくる父の事、口うるさい母の事、そして面倒くさい祖母の事。
その後友達とは別れたが、祖母の家の最寄り駅に降りた後空気がおかしかった。父がやたら明るい声をあげるし、母は気まずそうにもじもじしている。
どうやら聞かれていたらしい。私も少し気まずい。
でも仕方ないじゃないか。私だって友達付き合いがあるんだから。聞き耳を立てる方が悪い。
だから私は悪くない、悪くないはずだ。
「次はー、下。下に参りまーす」
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