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第四層
ぐおおおおおおん。
なんだ、この音。それに、凄く熱い。
私は電車の座席にべったりと座りこみながら、そのうだるような熱さと謎の轟音に耐えていた。まるで隣で工事をしているサウナ室にいるようだった。凄く不快だ。
だけど、どうにも意識がぼんやりするのは相変わらずだった。なぜかはっきりと物を考えることができない。なんでだ、なんでだ?
ようやく異常事態を察してきた私の脳内に疑問の声があがる。しかし、そんなことよりこの熱さと煩さとがあいまって私は余計なことを思い出す。思い出してしまう。
私が大学生になると同時に、祖母は死んでしまった。
春先だがまだ少し肌寒かった。なので黒い服に黒いカーディガンを纏っていったのだけれど、どうやら失敗だったらしい。
祖母の遺体が入れられた火葬場はものすごく熱かった。遠くに行けばそれほどでもないのだろうけど、よりにもよって親族枠で燃えてる場所からものすごく近かったからだ。漏れ出る熱が顔に吹きかかる。
私は熱さに耐えながら、その火葬場の中にいる祖母のことを思った。
最後らへんではまともに食事すらできなくなっていた祖母。話しかけてもニコニコ笑うだけで、返事すらできなくなっていた祖母。昔はそれでも活発だったのに、遺体の顔は骸骨と見まごうほどにやせ細っていた祖母。そして今その祖母は燃やされている。
私はあの時の景色はよく覚えている。
桜が舞い散る桃色の雨と、天高く昇っていく煙突からの白い煙。思っていたより多かった葬式の参列者の数。我慢できずにきょろきょろしだす子供たちの姿。泣いているたくさんの親族や知らない人。どこからか迷い込んできた猫が私の目を覗いていた。遠くに走る電車の走る音。
そういうどうでもいいことはくっきりと覚えているのに、あの時自分は何を考えていたのかがなぜか思い出せない。
あの時の自分は何を考えていたのだろうか。子供たちに落ち着けと言いたかったのか。それとも熱いから早く終わってくれと思っていたのか。涙を堪える父と暗い顔の母を物珍しく見ていたのか。
私、私は……。
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