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まあ、俺はどこでもいいけど…
金を出してくれるのは義父さんだから。
「ね、ゆづる、気に入ったでしょ?私とママ、やっぱり最上階がいいって話してるの。ゆづるもそうでしょう?」
「ああ。眺めが良い方が気持ち良いしな」
「市営地下鉄くろゆり駅なら私の実家まで1本で行けちゃうし、始発だから座れるし、こんないい物件ないよねえ」
上機嫌の伽耶と腕を組んで歩きながら、俺は駅前の花屋を指差す。
「ちょっと寄ってもいいか?さっき通った時、伽耶に似合うかわいいブーケ見つけたんだよ」
昔と変わらない店構え。
いくつかの大きなテコラッタの鉢。花の色を引き立たせる黒を基調とした内装。ブーケを英字新聞で包むやり方も変わらない。
ここで待っていて、と伽耶を外で待たせ、店内に入る。
「いらっしゃいませ…あら、ゆづる君じゃない。久しぶりね」
昔と変わらない美貌の女主人がいた。いや妖艶さは増しているかもしれない。
「あざみ。俺は変わったよ。
もうプロポーズなんてしないから」
「確かにガーベラの似合う彼女ね」
俺の肩越しに伽耶を見つけ、クスクス笑いながら、俺が買ったブーケの根元に手際良く銀紙を巻き付けていく。
「2年付き合ってて、結婚したがるからしようがないって感じだよ」
俺の言葉にあざみは、何言ってるの、と白く細い指で手振りをする。
「あのさ、あざみ。お店…8時に終わるんだよね?」
「ええ。はい、2200円になります。シャッター開けておくから、時間あれば今夜にでも、再配達してちょうだい」
良かった。
まだ、あざみは咲いていたか。
【完】
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