黒百合

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それから俺は休日ごとに地下鉄に乗り、あざみの家で夜を過ごすことになる。 俺の人生で市営地下鉄は縁がなかった。大学生から住んでる一人暮らしのアパートの最寄り駅は私鉄線だし。その駅から上り線に乗ると5つ目の駅で地下鉄に接続している。ホームの階段を降り、地下鉄の改札へ進むと、昼でも夜でも関係ない閉そく感ある独特の空間。 そこに生息する鉄の箱が、規則的にやってきて、俺を愛欲の旅に誘う。 くろゆり、というミステリアスな名前の場所へと。 彼女との関係は半年くらい続き、突如終わった。 俺が年上の魅力にハマりすぎたのが原因だ。 今思い出すと、あの時の自分をぶん殴りたい衝動に駆られる。 若気の至りでプロポーズとかしてしまったから。 「ゆづるには私なんか勿体無いよ」とあっさりかわされた。本当に結婚出来るとか思ってなかったけど、考えさせてぐらい言ってくれると思ってたから、プライドが傷付けられた気がした。 絶妙なタイミングで担当地区が変わり、そのままフェイドアウト。 その後、すぐ分かったことだが、 宅配便の若い男をたぶらかすのは あざみの趣味だったみたいだ。 宅配便のアルバイトを辞める際 先輩にあざみの話をぶっちゃけたら、先輩もあざみと1回だけ寝てたし、その他にも何人かいるって衝撃の事実を聞かされた。 でも、不思議と憎めなかった。 女手ひとつで花屋を切り盛りしていた美しいあざみに普通の生き方は似合わない。遊びだったとしても俺は許すよ。 半年も付き合っていたのは俺だけだったと思うから。 ……多少は本気だったんだよね? あれから5年後、再びくろゆり駅を訪れる日が来るなんて。 それは俺が選んだことじゃない。 くろゆり駅徒歩5分 【リリーベル・レジェンド】なる 新築マンションの内覧会に行くのだ。 伽耶と俺は半年後に挙式する。 結婚が決まってから、恐ろしいスピードで物事がどんどん決まって行く。 リリーベルレジェンドの件も先週、伽耶と伽耶の母親が先週、内覧済みだったりする。女どもはそこがすっかり気に入り、新居は決まったようなものだ。
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