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月明かりに照らされた道を歩きながら、レイスはふと、空を見上げた。
別に月を見たかったわけではない。それでもなぜか、上を見たかった。
あるいは、直感的に何かに呼ばれたような気がした。
「──あれって……」
その目が捉えたのは、空でも月でもなかった。
「女の子……?」
高層の建物の頂上とも呼べる切り立った場所に、人影がくっきりと映し出されていた。
目を凝らせば、その屋上に佇むのは間違いなく一人の少女の姿。
月から降り注ぐ青白い輝きを背負いながら、両腕を広げて夜空を仰ぎ見ているようだった。
白のワンピース姿。歳は、十代半ばくらいだろう。月光を浴びて銀色に輝く髪とスカートの裾が、柔らかい夜風に引かれて宙を漂っている。
綺麗──そう思った。
だから、少女の存在に目を奪われ続ける。月と星空を背負ったその少女は、文字通りの崖っぷちで、細い十字架のように佇んでいた。
ガラス細工のように脆そうで、その上、今にも足を踏み外して地面へ落ちてしまいそうな危うささえも、綺麗に思えた。
だが少女は──呆気なくその場から飛び降りた。
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