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「こんにちは。お目覚めかしら?」
──声がする。
「ん……ううん……」
──体が重い。起き上がりたいのに、体がまるで言うことを聞いてくれない。
「お寝坊さんには、キス、しちゃおうかしら」
「──っ!」
──一瞬にして、頭から足先まですべての感覚が冴え渡った。目を見開き、目の前の景色をその翠の瞳に映す。
「ここ、は……──っ!」
大理石に覆われた真っ白な空間。あちこちにあしらわれた真紅のバラたち。それらの景色よりも何よりも、目の前の女の姿を見た途端、彼女は反射的に女から飛びのいた。
「あら。つれないわね」
そう言いながらも、女は微笑み、こちらを見つめる。
「あなたは、まさか──」
脳裏に浮かぶ母の言葉。そして文献の数々。それらすべてが頭に警鐘を鳴らしていた。同時に、自身の姿を見て驚愕する。
「なっ! なにこれ!?」
「よく似合ってるわよ」
──ウェディングドレスだった。純白の、まさに結婚式で着るための装束であった。
「なん──どうして……」
「決まっているでしょ」
女の笑みが一瞬で邪悪なものへと変貌した。
「結婚するからよ。私たち」
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