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「『ケイオスハート』……」
膝が震える。力が入らず、立っているのもやっとだった。それほどまでに、その宝玉は自身に黒い絶望という名の槍を穿つ。
「さ、もうあなたに用はないわ」
女は宝玉──『ケイオスハート』を手にすると、先程までの邪悪で歪んだ顔を一転させたような無表情でこちらを見た。
「その"本"を捨てて、死になさい」
「──っ!?」
次の瞬間、女の凶器が喉元を掠めた。
間一髪で避けるも、そのまま体勢を崩して無様に転がる。次にもう一度同じ攻撃が飛んできたら、避けられる可能性はないに等しい。
「いや……」
──それでも、絶対に諦めるわけにはいかなかった。
「「白」は捨てないし、私は、死なない!」
──今この瞬間から、悲劇を止めることが使命に変わったのだから。
「よく言ってくれたよ」
「ぇ──」
一瞬、声が聞こえたはずなのに、直後に体は空間を飛んでいた。
目の前にいたはずの女も侍女もいない。どころか景色がまったく異なっていた。周囲に展開される魔法陣ばかりが印象に残る。
「転移魔術?」
記された魔法陣からそう判断するが、今はそんなことは重要ではない。
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