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その日は、騎士学校が長期休暇に入る日だった。
寮に棲まう騎士学校の生徒が一旦の帰省を許されるその日は、普段親元を離れて自分のことは自分でしなければならない現状に癒しを求めてほとんどの生徒が帰省していた。
もちろん、レイス・ハーランドもその一人であった。
しばらく離れていた兄弟に会うために、彼はやっと整理し終えた荷物を抱えて夜の家路を歩いていた。
蜂蜜色の短い髪に琥珀色の優しい瞳が印象的で、彼を見る者のほとんどが第一印象として「いい人そう」と言う。しかしややもすれば、彼は周囲の人間のほとんどに遠巻きにされ始めるのだった。
理由は至極簡単で、なぜなら彼が「変わり者」だからに他ならない。いつ何時も、彼はその顔に笑みを浮かべていたのだ。怒られても殴られても罵倒されても貶されても侮蔑されても、彼は笑っていた。それが周囲の人間にとっては非常に「気持ち悪い」のであった。
レイスもそれは理解していた。自分が異質なのだと理解はしていた。けれど変わらない。変われない。
──彼は怒らない。否、怒れない。
それはいつか死んだ父との、約束だから。
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