孤独

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 どれくらい経っただろう。  何年か、それとも何か月か。もしかしたら数週間程しか経っていないかもしれない。  人類が食事をとらなくても良くなったのはもう何世紀も前だ。正確には、食事の取る間隔を数十年単位で伸ばせるようになっただけだが、そこまで伸びれば取らなくても良いと言っても過言ではないだろう。  肺に当たる部分に超小型原子力疑似光合成装置を埋め込むことで、体内で発生した二酸化炭素と水分は栄養と酸素に分解され、再び体内に戻される。つまり、呼吸も不要である。  どうしても効率の面で、少しずつ消費してしまう為、何十年かに1回は食事や呼吸をしなければならないが、基本的に餓死は無いと言っていい。  さらには、どこかの細菌から持ってきた遺伝子の一部かなにかを人間に組み込んだことで、人間は老化しなくなった。  つまり、ナイフで刺したり、服毒したりしない限り人間は死ななくなったのである。  そんな身体が今は憎い。  私は今、宇宙を漂っている。  地球に隕石が迫っているとかで、人類は他の惑星への移住を試みた。  地球に似た、人類が住めそうな惑星があるとかで、800年ほどの宇宙旅行になる筈だった。  宇宙船に地球上の全人類を乗せることなど不可能で、どんなに頑張っても半分が限界だと言う。  私は、その2分の1の抽選に勝ったのだ。あの時は喜んだものだ。  だがこれは、負けだったのかも知れない。  地球に残って、星と運命を共にした方が幸せだったかも知れない。  宇宙船は事故を起こした。地球を出て間もないころ。爆発事故だ。  みんなが即死するほどの事故だったら良かったかもしれない。  しかし、全員が宇宙服を着て、いくらか行動するだけの時間があった。  そして2度目の爆発でみんな宇宙へ投げ出された。散り散りの方向へ飛ばされていった。  地球の方へ飛ばされたものは良かったかも知れない。  そのまま大気圏に突入して死ねるだろうから。  私は地球とは反対の方向に飛ばされた。  景色はグルグルと回り、1回転ごとに視界に入る地球が遠ざかっていくのがわかる。  あぁ、この身体が憎い。  自分では宇宙服を脱ぐことができないから自殺もできないし、酸素も食事も必要ない。  私はこれから何十年、孤独と退屈、それから恐怖に支配されながら宇宙を漂っていくのだ。
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