黄昏

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坂を上ると、緩やかな下りとなる。子供の頃大袈裟に避けていた櫨の木の下を、全く気にせずに通り抜けた。煙草屋、コンビニ、焼肉屋。銀行のATMへたどり着き、少し迷って、四千円ほど引き出した。 時刻は十六時を少し過ぎた辺りだ。ここから目的地へは、五分ほど。どうやら私は、今日も一番乗りを決めてしまうらしい。 歩いていると男女の二人組とすれ違った。年下か。明らかにカップルである。あの頃の恋は、結婚まで至らない。ほろ苦い思い出が胸一杯に広がった。他人の不幸を願う大人。おお、嫌だ。 その店の看板が「営業中」となっている事に安堵した。どうやら無事に飲めるらしい。不規則な休業があり得ない訳ではない。健常な祖父母の近況報告に似ている。危篤とは無縁そうだが、しかし、いつ倒れるかは分からない。 いつも止まっている軽自動車が、今日は止まっていなかった。相変わらず、一歩目には勇気が要る。入店すると同時に、厨房の方へ鐘の音が鳴り響き、店員が一人私の前に現れた。 「いらっしゃいませ」 偶然、それは、私が一番気になっていた女性店員であった。 彼女については二ヶ月前、一人で初来店した時からの仲だった。彼女はその時もこうしてカウンター席へ案内してくれた。私は少し気後れしながらも酒と、美味い肴を食べたくて後に従った。二ヶ月、週に一度二度通っているが、彼女に会えたのはこれで三度目。どうにもタイミングが合わないらしい。代わりに、この店を取り仕切って要るであろう、私の顔をすぐに覚えてきたおばちゃん店員が、よく私の応対にあたっていた。 嫌いな訳ではない。むしろ好きな部類であるが、年の差か、今回三度目に会った女性店員の方が心をくすぐる。 「いつもありがとうございます」 彼女の方は、私を覚えているらしかった。いつもの、カウンター最奥の席。座って、いつものように麦酒と枝豆を頼む。 ここを見つける前から、一人飲みをやっていた訳ではない。一人で飯を食い、ついでに酒を飲むことはあった。こういった酒を飲む事がメインの居酒屋に出入るする事は、ちょっとした気まぐれからだ。
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