黄昏

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最初は、会社の先輩と一緒に入店した。ここは去年にオープンした。前身のバーだかカフェだか、それが閉店して、居抜き物件というか、内装そのままにオープンしたのがこの店だ。私も先輩も、この店は初めてだった。できたらしいから行ってみましょうと私の方から提案した。先輩は、すぐに酔った。彼女と別れ話を長々話してきた。その元カノと、元カノの今カレと言おう。その態度が何やら気に食わぬらしい。様々アドバイスしてみたが、先輩はああ、やらうん、やらで一行に要領を得なかった。 ああこれは、ただ愚痴を聞いて欲しいだけなんだ。現状に不満は持っているけども、それを脱却する為の労力と、流す血が惜しいのだ。そう悟ると急に興ざめして、しかし出てきた肴が美味しく感ぜられ、今度はこんな不毛なやり取り抜きで純粋にお酒を楽しみたいという願望が芽生えた。それから、この店での一人飲みが始まった。 最初こそ緊張したが、オープンしたばかりで昔馴染みの常連がいない事、酒の肴として私が最も愛する焼き鳥に力を入れていることなどが、通い続ける理由になった。先刻の女性店員は、まあ会えたらいいなくらいのものである。全く会わないから、辞めたのかもと思っていた。 私はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、少し操作して、鞄から本を取り出した。その本は新書であるが、中身は過去作の総集編だ。私は、その収録話の殆どを一度読み終えていた。 先細りする貴族が、革命だの何だの、その内付き合ってもない男の子供を授かり、一通の手紙をしたためる話。女性は強い。かくあるべきだ。 こういう、情熱のある可愛らしい女性を将来妻にしたいと、飲む前から既に酔っ払っていた。 そうこうしているうちに麦酒と枝豆が運ばれて来る。 「何かありましたら、どうぞ。すぐに伺いますので」 私ははっとした。従来の、他の店員であればどうぞ、の一言で去るところである。持ってきたのは、さきの女性店員である。何か甘酸っぱいものを感じながら、いやしかし、これも独身男特有の淡い期待か、と味覚的に苦い飲み物ですっかり流してしまった。
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