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しかし男は、そんな妻を持ちながら、外出先で様々女を引っ掛ける。男は、やはり私の中で詩人だ。きざな、格好いい言葉で女性に語りかける。何処と無く危ない魅力とでも言おうか。この短編が書かれた時代は、そういう熱さにむしろ惹かれるような時代であったのかもしれない。
この静かな、悟りだゆとりだ言われている時代に一人ちびちび酒を飲む男に、しかし、それは魅力的に映った。表面上、理性的には小馬鹿にしながらも、しかし何処と無く、真似してみたい衝動に駆られる。
小説の男は、奥深い、きざな詩的表現で女性を惑わせる。
「お代わり如何ですか」
不意に、左側から声をかけられた。見ると、あの女性店員だった(苗字は知る機会があったのだが、何故だろう、今、頭文字だけでも書こうとして、しかし思い出せない)。
私は、二杯目の麦酒をすっかり飲み干していたようだ。それがこの女性に見つかったらしい。
「ええと」
言って、目前に立てかけられているメニュー表をパラパラとめくった。といって、よく頼むメニューは既に頭の中に入っているのだが。
「地酒、これ、と、あと串カツを頼もうかな」
「はあい」
気にしすぎかもしれない。彼女は、直ぐには立ち去らなかったように見えた。
酔いも手伝って、私の胸にささやかな野望が芽生えた。かの大先生が聞いたら鼻息で消し飛ばしてしまいそうな、小さな小さな灯。ここでこの店員を厨房に帰せば、やはり単なる客と店員だ。
私は、革命を試みた。
「よく入られているんですか?」
「私ですか?」
彼女は、少し驚いた風だった。
革命と呼ぶには、スケールも力量も足りてない。私は自嘲しながら、貴方です、と返答した。
「良く入っていますよ」
「そうですか?あまり会わないから」
あの、小説の男なら何て言うだろう。美しいの一言でもここに付け加えるのだろうか。
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